打ち寄せる古里の波

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その瞬間、砂に立ちながら気付いたのは
     足下のがらくたが何であること
          流木にもつれ合っている
     羽毛でまだらの
          昆布にまつわりつかれた物

蕎麦屋の壁、酒屋の屋根
     数え切れない住宅から
          黄色い絶縁体の塊

台所と居間から
     浴室と寝室から
醤油がまだ中に流れる瓶
     紅茶と麦茶と歯ブラシ
          テレビ

高潮がうちよせた曲線を歩む我
     割れたサンダルをまたぎ
          長靴の靴底を渡る

この物一つ一つは意味があると解った

ただのゴミではない

だれかが捨てた物でもない

あの晴れた金曜日の午後
     緊急警報が放送された一瞬
          おじいちゃんは
     テレビで何を見ていたのか

床が震え、
     戸棚から料理の材料が
          霰のように降り
     近所の人々が外で叫び出したとたん
          おばあちゃんは
     どのような食事を準備していたのだろう

前は避難勧告が鳴り響き
     後は海のとどろき
          走れるところも無く
     おばあちゃんは階段で靴を無くしたのだろう

一万キロ離れた我はその夜
     母国が流されるのを観た
          故郷の土で黒く染められた波
               木製の風浪

古里へ戻ることは出来ない

この砂浜でそれは分かった
     
しかしながら、
     黒く染められた波に乗り
          木製の風浪に運ばれ
     古里は我の足下に流されていた。

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